愛地球博のテーマゾーン「めざめの方舟」は、総合演出に押井守氏、映像演出は林弘幸氏、音響監督は若林和弘氏、プロデューサーに久保淳氏という早々たるメインスタッフ。その中に、音楽として参加することとなったのが、我らが川井憲次。
今回、押井氏が目的としたのは「体感」できる空間を作ること。パビリオンは異例の14.1ch。
これまで数多くのTVシリーズや映画音楽を作ってきた川井にとっても初めてのこと。
エンジニア福代教平氏、大橋健氏と共に何度も打ち合わせを重ねた末、2004年10月にミュージシャンとのセッションが始まった。
コーラス録音では、単一指向性マイクと無指向性マイクそしてリモートタイプの高性能マイクアンプを使用。主体とする単一指向性マイクは、真空管マイクを用意し、無指向性マイクは、俯瞰の音を拾うために使うので音源から少し離してセッティングしています。一般的に、ポップスなどのコーラス録音には単一指向性マイクを使うのですが、再現しなければならない現場は14.1ch。この事により、今回は無指向性マイクを多様。民謡特有の倍音やビブラートを録音目的として使いました。
和太鼓ダビングは、基本的にダイナミックマイクを和太鼓の上方に立て、それを中心に和太鼓の皮のアタック音といった芯の音を中心に録ります。
しかし和太鼓の場合、人間は胴鳴りを含めた音を和太鼓と認識していますので、コンデンサーマイクを2〜3m離れた位置にセッティングして胴鳴り部分をも録り、広がり感と厚みができるよう作りました。
また、胴鳴りの重低音を補強するためには、打点の反対面(和太鼓の裏)にもマイクを足すことがあります。
本来14.1chのミックスは、最初から会場で行うことがベストですが、卓を持ち込むことが出来なかったり、時間的にも制限がある為スタジオでのプリミックスから始めることに。
プリミックスでは、スピーカーを前方に3台、後方に3台を円周状に配置し、スーパーウーハーを前方に1台、後方に1台を用意して6.1chにセッティングしました。
スタジオミックスのコセプトとしては映画などの5.1chや6.1chのミックス方法を基本にしていますが、フロント、リアといった意識をせず、方向性をあまり持たせないような広がり感をより重視しました。
しかし、このままではスタジオでミックスした音をパビリオンで再現するのは不可能。
場所が変わり、バランスも変われば曲の印象は変わってしまいます。
各パートごとに音量を変えたり、イコライジングする必要もあります。
この理由から、会場での面ミックスはパビリオンの音響特性に合わせて、パートごとに音質調整ができるように、弦、コーラス、和太鼓といった各パートに分けてミックスする方法をとりました。
面ミックスの準備をした後、会場に持ち込んだチャンネル数は多い曲で200chを越えています。
ミックスすると減るチャンネルは逆に増えていました。もともとのマルチテープの素材は120〜130chなのに150chに増えた状態になったからです。
どうしても面ミックスを始める前にリバーブ処理を済ました状態にしておかなければならない為、チャンネル数は増えてしまうのです。
例えば、1chの「ドーン」という音にリバーブをつけるとき、エフェクト処理済みの状態を1グループとする為、計7chに増えるという訳です。
パビリオンでは、上下2台づつ12個のスピーカーが壁に設置してあります。
ここで避けなければいけないのは、1点から音が出ている、といった感じになってしまうこと。試行錯誤した結果、上と下のフォーカスポイントを上下でずらしたことにより、定位と広がり感を得ることができました。
また、天井のスピーカーからは、鈴の音を出し上下感を演出しています。
基本的に14.1chのミックスはスタジオではできないですし、例も無く、正解がないため、何度も繰り返し実験しながらの面ミックス・・・。
心配も募った。
そして、2005年1月22日、最後の面ミックス終了。
2005年2月1日、初号。
あとは皆さまに少しでも楽しんでいただくことができたら幸いです。