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■ イノセンス カンヌ映画祭レポート

 今回はスクリーニングの前日、19日昼に日本を発ち、同日夜カンヌに着きました。私は押井さんと石川さんの飛行機と一緒ではなかったのですが、シャルルドゴールで合流し、ニースまでは一緒の飛行機で行きました。
ニース行きの飛行機はフルブック状態で、日本人も大勢乗っており、その中には某有名人の姿も・・・!

 その夜はカンヌのレストランで、押井さんやIGの方とミーティングを兼ねた夕食をとりましたが、翌日はスクリーニングやフォトコールと呼ばれる写真撮影、インタビューが行われるため、あまり深酒しないでちょっと早めに寝ました。もっとも私は普段からフランス時間で生活しているので、時差ボケは全くありません。フツーに寝りゃいいのですから、楽チンです。

 一夜明けて、10:00AMにマジェスティックバリエールという海上レストランに集合。
 前回"AVALON"でカンヌに行った時は異様に暑かったのですが、今回は比較的涼しくて助かりました。とはいえ気温こそ低いものの、日中はすごい日ざしで、やっぱコートダジュールならでは、ってカンジです。
 ここではフランスのTV局が、押井さん、石川さんと私の3人で歩いている映像を撮ったり、海上で押井さんのインタビューが行われました。その後パレに移動し、プレス等によるフォトコールという写真撮影、パレの中で記者会見が行われましたが、さんざん強力な陽射しを浴びてきた私たちには、この会場はエアコンが効いて大変気持ちが良かったのです。質問は押井さんに向けられたものが多く、押井さんのコメントがまるで子守歌のように聞こえてきて、ついちょっと・・・。

 その後も、押井さんのインタビューは引き続き行われ、その数は70だったか100だったかわかりませんが、とにかく文句一つ言わず精力的にこなす押井さんには頭が下がる思いです。その間、私はジャパンパビリオンでくつろいだりして、申し訳ないったらありゃしません。

 ジャパンパビリオンは今年からできたそうですが、テラスの先がレストランの排気口になっているようで、夕方になると干物やイカを焼いたような強烈な匂いと煙で充満します。なぜカンヌで干物が?と思いましたが、下のレストランは、けっこうアジアンな料理が中心ということで納得。でも、これはまさに海の家では、とも思ったり。

 また、ジャパンパビリオンで万田監督や、仙頭プロデューサーともお会いし「日本よりカンヌでよく会いますね」などというカッコいい会話をしたりしました。

 夕方、いったんホテルに戻り、シャワーを浴びてタキシードに着替え、急いで待ち合わせ場所のカールトンに向かいます。自分を含め、みなさん滅多にタキシードなんか着ないから、しきりに蝶ネクタイとか気にしています。そこに照れくさそうに押井監督登場・・・とりあえず写真大会になったのは言うまでもありません。

 "2046"が予定通り(?)押したため、予定より30分遅れてホテル横に迎えに来た9台のオフィシャルカーに乗り込みます。AVALONの時はプジョーでしたが、今年はルノーです。オートバイ2台に先導され、車列は交通を遮断されたクロワゼット通りをゆっくり進みますが、たくさんのギャラリーに見守られながらのパレード、といったおもむきで、なんだかスターになったみたいでした!

 車は順次レッドカーペット前に横付けされ、車のドアが開けられます。その周りをいかにも怖そうなSPが、ほぼ襲われる可能性のない我々を厳重にガードしてくれます。その時、道路の柵越しに、フランスのファンの方々から「Kenji!!」と言われ、嬉しくて思わず手を振ってしまいました。

 車を降りると、公式インタビュアーが押井さんと私にインタビューをしました。車を降りたらスグ階段を登る、というイメージがありますけど、実はここでけっこう時間があり、ここでもみんなで写真大会です。

 やがてフェスティバルの係の人が私たちを整列させ、カンヌの公式音楽が流れます。その後、傀儡謡が流れてゆっくりゆっくり歩き、時々撮影のため立ち止まりながら"おじさん3人"はレッドカーペットを上っていき、登り切った所で大会委員長と握手をするのです。その時言われたのは「再びカンヌにようこそ」だったと記憶しています。
 そういえばレッドカーペットを上りながら、私は押井さんに「今回は靴、大丈夫ですか?ここでコケると、まじヤヴァイっす!」と言うと「大丈夫!気をつけてるから、大丈夫!」という会話があったのはココだけの話。

 無事登り切り、本来だったらここで振り返って手とか振るのですが、私たちはそのことをすっかり忘れ、スタスタとホールのロビーに入ってしまいました・・・。これは大失敗です。
 そのロビーには、なぜか寝そべっている犬が・・・。押井さんはいきなり立ち止まり「ん?この犬は、何の種類かなあ」等と言っているものの、そんな悠長な状況ではなく、係の人に促され、しぶしぶ会場に入ります。

 会場では、車の到着からレッドカーペットを上ってくる模様の全てが映し出されており、お客さんは立って拍手をしながら我々を迎えてくれました。そしてそれぞれ自分の名前の所に着席し、上映は始まりました。

 オープニングのクレジットの最後にMamoru Oshiiの名前が出ると、観客から大きな拍手が・・・!
なんかこれだけで、カンヌに来て良かった、と思える瞬間でした。
 また、カンヌでは、気に入らない作品だとじゃんじゃん席を立つ、というウワサでしたが、幸い上映中席を立ったのは9人だけでした(ウチのスタッフが数えていた)。

 そしてエンディングのスタッフロールが終わると同時に、会場が明るくなり、バッと私たちに強力なスポットがあたります。
あまりの明るさに周りがよく見えないのですけど、観客は全員立って拍手をしてくれています。
どうポーズをとるか慣れていない私たちは、ちょっと手を振ったり、軽くお辞儀をしたりと、照れくさいったらありゃしません。
とはいえ、これは押井さんに対する拍手そのものなので、私ごときがいつまでも一緒にその中にいるワケにはいきませんから、私もちょっと離れて押井さんに拍手をいたしました(・・・つまり逃げたワケです)。
 もっとも、そこで私たちがもっとハデにパフォーマンスができたら、スタンディングオベーションはさらに続いたのかもしれませんが、なんだかいたたまれなくなって、じわじわとホールから退場いたしました・・・。

 私たちの出口も、観客の出口も一緒ですので、お客さんからいろいろ感想をいただき、たくさんの握手をいたしました。日本でも滅多にないことですし、ましてカンヌですから、本当に嬉しかったです。

 その後、パーティー会場であるジャパンパビリオンに向かう道すがら、ふと振り返ると、レッドカーペット脇に設置された巨大ディスプレイに、満面の笑みをたたえた押井さんのどアップ写真が!
おおっ・・・!

 それは、私たちも知っている、押井さんの最高の笑顔でした!






 まあ、賞の結果はちょっと残念でしたけど、日本のアニメーションがカンヌのコンペに出た、というだけで十分意義のあることだと思います。私なんか、いわばオマケでしたので、あまりエラそうなことは言えませんけど・・・。でも、またいつか行きたいですね!